兵庫県内企業の高脂血症に対する保健指導の指標の作成とその活用方策について(平成11年度)

主任研究者 兵庫産業保健推進センター所長 瀬尾摂
共同研究者 兵庫産業保健推進センター相談員 小泉直子
兵庫産業保健推進センター相談員 中島美繪子
兵庫産業保健推進センター相談員 野島紀子
兵庫県信用金庫健康保険組合 薮田千津子

【目的】

血中脂質とは何か、保健指導の方法等を検討し高脂血症に対する保健指導の指標を作成し、その活用と保健指導の充実をはかり、生活習慣病の予防や健康保持増進に資することとを目的とする。

【背景・必要性】

[方法]兵庫産業保健推進センターが中心となり、産業保健に携わる保健婦・看護婦が集い(兵庫産業看護研究会)、メンバー全員あるいはワーキンググループで検討を重ねた。その内容は、高脂血症に対する理解の質の向上をはかり、まとめる作業、所属する9事業所の定期健康診断時の総コレステロール値の分析・把握、保健指導方法・手順の検討、事例検討等であった。近年、一般定期健康診断結果の有所見者の割合は年々増加し、平成11年度の有所見率は43.2%となっている。中でも血中脂質の占める割合は最も高い。高脂血症は動脈硬化を促進し、虚血性心疾患や脳血管疾患へと結びつく。働く人々の健康確保の推進について、産業看護職もその役割を担っている。一般定期健康診断後の措置の際に「生活習慣病・予防への支援」など、効果的な保健指導が期待されているが、現状では、血中脂質全体を総合的に捉えたものや、職場での保健指導の手法等については、十分な指標が得られていない状態である。

【結果および考察】

1.高脂血症に対する理解の質の向上をはかり、まとめる作業

(1)高脂血症とは何か(2)診断・治療基準(3)検査値の精度(4)高脂血症治療薬についてまとめた。
高脂血症に関して、実際に現場で活用する際の基本的な知識の整理等を行うことができた。

2.所属する9事業所の定期健康診断時の総コレステロール値の分析・把握

兵庫県下9社の平成10年度総コレステロールの平均値は男性200.0mg/dl(13155人)、女性188.8mg/dl(2875人)全体198.0mg/dl(16030人)であった。また総コレステロールの値が220mg/dlをこえる割合は男性で27.0%、女性17.3%、全体25.2%であった。
兵庫県下の血中脂質有所見者は26.5%なのでほぼ同じ水準にあるといえる。

3.保健指導方法・手順の検討

高脂血症の保健指導は、健康診断や健康相談の実施時や、個人や集団に対する健康教育の際にも行うが、ここでは健康診断の事後措置として個人に対する保健指導の指標の作成を試みた。
事前準備、面接時対応、指導の実際、効果の指標等について検討した(※表1参照)。
より効果的に、過不足なく保健指導/支援を実施するために事前準備(保健指導をする前の準備)から評価に至るまで、看護職が使用する個人票を作成した。その記載事項の一部を示すと、

<表面に記載する事項>
・個人基礎情報・業務歴・既往歴・家族構成と家族歴・自覚症状・健診結果の推移・
1日の生活パターン情報・運動状況・通勤状況・嗜好品状況・
アルコール/タバコ・コーヒー/紅茶・間食

<裏面に記載する事項>
・健康目標・問題点・面接日・今回の検査データ等・面接内容・指導内容・感想・次回予定
である。

1)事前準備:予めわかる対象者の個人情報を整理し、可能な範囲で保健指導計画(案)を作成する。
2)面接時対応:待ち時間を活用し、別に作成した問診票(高脂血症用)、チェック表に記入された内容をふまえ、作成した面接時対応検討表(マニュアル)を参照しながら、対象者のおかれた労働環境や知識にあわせ、意志/意欲を尊重し支援していく。
3)指導の実際:高脂血症改善を念頭におきながら、データの経年変化を従業員に伝えたり、運動、食事、たばこ、アルコールなど具体的に支援する。わかりやすい図や表・ビデオ等、教材を利用する。
4)効果の指標:検査データ、BMI等の維持/改善、健康目標の達成度、達成感/満足度等があげられる。個人票を使用することにより、基本的なパターンが示され保健指導に役立つことが期待される。

4.事例

心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまった事例等を通して、データの変化や発症するまでの生活習慣とその後の生活を比較したりすることから多くの示唆を得た。事例の一部を※表2に示す。

<※表1 保健指導の流れ>

指導/支援内容 帳票の作成
事前準備 ・保健指導対象者の抽出
・対象者のデータ収集/整理
・保健指導計画(案)の作成
個人票(高脂血症)の作成
面接時 ・待ち時間にしてもらうこと-個人情報の記入等
・面接時対応-導入、情報収集と分析、計画
問診票(高脂血症)、チェック表の作成・活用
面接時対応検討表作成
指導の実際/実行 ・運動・食事・たばこ、アルコール・休養
・その他
評価 ・検査データ、BMI等
・健康目標


<※表2 心筋梗塞/脳梗塞発症事例> ( )内は前年度検査値

Tーcho TG BP 肥満度 備   考
1.54才・男性 345
(251)
1219
(401)
134/92
(138/88)
22.9
(15.3)
心筋梗塞発症
油っこい料理が好き
2.62才・男性 201
(180)
214
(143)
138/70
(192/106)
-3.6
(-9.0)
心筋梗塞発症
塩分・油っこい料理が好き、野菜を食べない
3.48才・男性 240
(205)
210(239) 144/104
(134/86)
28.8
(23.2)
心筋梗塞発症LDL-cho148.2(107.6)
朝食なし、インスタント・ラーメンや菓子をよく食べる
4.58才・男性 311
(236)
400
(-)
135/88(133/92)
(-)
脳梗塞発症

【おわりに】

会員が、力をあわせ、高脂血症に関する保健指導の指標を検討・作成するなかで、日常の業務を振り返り、多くの学びを得ることができたとおもう。肝心の生活習慣情報が、十分にはとれていないことに気づいた場面もあった。新たに保健指導の帳票類を作成したので、兵庫県下の看護職の実用に供していきたい。また、それらを実際に使用した後のご意見や、評価を受けていきたい。

 

※ 兵庫産業保健推進センターでは、上記の「平成11年度産業保健調査研究報告書 兵庫県内企業の高脂血症に対する保健指導の指標の作成とその活用方策について」の抄録を無料で配布しております。ご希望の方は当センターまでご連絡下さい。